成田翔 vs ”機動破壊” | 高校球児たちのあしあと
”球児の数だけドラマがある。”

成田翔 vs ”機動破壊”

2020年4月1日

一躍名を馳せた健大高崎

2019年10月4日(金)。

そういえば、今土日には県高野連主催の強化招待試合があることを思い出しました。

招待校は、かつて甲子園で”機動破壊”というキャッチフレーズで一気に全国的知名度を獲得した、

高崎健康福祉大学高崎高等学校。通称、「健大高崎」。

しかし、”機動破壊”とは?

初めてその言葉を目にする方のため、健大高崎の硬式野球部HPより、以下を引用させて頂きます。

ーーーーー(以下、引用)-----

旗印 「機動破壊」

~疾風迅雷・波状攻撃~

「機動破壊」ということばは、健大高崎野球部の生み出した独自の造語です。このことばの中には様々な意味や創始者の思いが内在しています。その内容を簡潔に表現するならば、「疾風迅雷」・「波状攻撃」・「定石破壊」・「心理戦略」となりましょう。
「機動力」=「盗塁」。そして、「破壊力」=「長打力」。そのようなイメージで色分けされた図式が野球界には旧来より定石として存在します。
しかし、健大高崎の目指した野球はそうではありませんでした。もちろん、盗塁の占める領域は存在しますが、それは100%の中の30%程度の比重でしかありません。健大高崎が思い描いたものは、記録に残らない走塁を駆使した心理戦であり、常に「プレッシャー」という「波状攻撃」を仕掛けることで、徐々に相手を追い詰めて崩していき、最終的に「破壊」することにありました。
ですから、盗塁をしないという「機動破壊」も存在します。過激な表現から、盗塁することによって、「木端(こっぱ)微塵(みじん)」に粉砕することを連想させてしまいますが、実はそうではありません。浜辺に作った「砂の城」が、何度も打ち寄せる波に「浸食」され、徐々に崩されていく様を骨子としています。

ーーーーー(引用ここまで)-----

この”機動破壊”という言葉の生みの親は葛原美峰コーチ。(現在はコーチ陣の中にはいません。)

今夏の甲子園、あの近江の林投手を打ち崩した東海大相模の”アグレッシブベースボール”を思い出しました。地方大会では「鉄壁の守備」を誇っていた近江高校を攻撃的な走塁などで心理的に追い詰め、見事エラーを誘発、そして打撃で林投手を攻略しました。

しかし健大高崎の「機動破壊」はさらにもう一枚上手のような気がします。

”相手の心を攻めるを以て上策とする”。

そのような、戦国史家が語りそうな雰囲気すらあります。

ここで、あの2015年の夏の甲子園、秋田商業 vs 健大高崎の熱闘を振り返りたいと思います。

(※当時の感情をより正確に伝えるため、少し口調も変えています。)

 

野球に抱いていたイメージを覆した健大高崎

2015年8月。

秋田商業のピッチャーの評判を聞き、楽しみにしていた夏の甲子園。

テレビを観ていた自分の目に、衝撃的な映像が。

それは1回戦、健大高崎(群馬)vs 藤井学園寒川(香川)の試合のハイライト映像だった。

健大高崎の1塁ランナーが2塁への盗塁を成功させる。ここまでは別に驚きもしない。しかし間髪入れず、3塁へ走る!寒川のキャッチャーが3塁に投じたボールは悪送球となり、盗塁したランナーはそのままホームイン。

「なに、これ、、、。」

さっきまで1塁にいたランナーがホームに生還。ヒットを打ったわけではない。

健大高崎はこの試合だけで7盗塁を決め、さらに打撃で打ち崩し、10-4で大勝。

「こんな野球も、アリか、、。」

 

甲子園初戦で16奪三振を奪った成田翔

(画像はイメージ図です。)

さて、待ちに待った秋田商業の試合。

2回戦からの登場で、相手は龍谷(佐賀)

成田投手の前評判を聞いていた自分はひそかに期待を寄せる。

果たしてどれだけ三振を奪ってくれるのか?

しばらく目立つほどの躍進が甲子園で見られなかった秋田県勢。

「今年こそは、、」という目で見ていた自分の期待を上回る結果が。

最速144キロの速球に加え、得意のスライダーで三振の山を築く成田翔。

「これはいけるぞ、、。」

「16奪三振!?」

しばらく興奮を抑えきれず、試合後もテレビの前から動くことができない、、。

ーーーーーーーーーー

そして迎えた3回戦。

次の相手は健大高崎(群馬)

「健大、、」

「健大、、高崎って、まさか!?」

少し前に同じテレビで観たハイライト映像の記憶が蘇る。

「あの走塁でかき乱すチームか。」

嫌な予感しか湧かなかった、、。

後で知ったことだが、”機動破壊”の生みの親、葛原コーチは成田投手に三振を奪われることを最も警戒していたという、、。そして健大高崎が選択した策とは、、。

 

さらに予想外の姿を見せた健大高崎

1回裏、健大高崎の攻撃。

1番春日が倒れ、2番林。

バットの構えが水平に近い。いや、45度といったところか、、。

バント? ヒッティング?

どちらとも取れるその構え。しかも両手の握りに驚くほどの隙間が、、。

おそらく揺さぶりの意味もあるのだろう。どちらにもすぐに対応可能な構え。

その林はショートへの内野安打で出塁。

続く3番相馬も、林と全く同じ構え。

「これが健大高崎の攻め方なのか、、。」

成田が投球モーションに入った、と同時に林が1塁ベースを蹴る。

「来たっ!!」

予想していた盗塁。ゆうゆうセーフ。1死2塁となった。

秋田商業のキャッチャー、工藤も当然警戒はしていたはず。

それでもやはり、走力の高さをうかがわせる林の走り。

相馬を三振に仕留め、2死2塁とする成田。

「よしっ、2回戦のように三振の山を築いてやれば、どれだけ走ってこようが、、。」

楽観的な見方をしたことに、この時は気付かなかった、、。

4番柴引。

センターへのタイムリーで健大高崎が先制する。

秋田商業 0-1 健大高崎

 

秋田商業、早くも反撃

2回表、秋田商業の攻撃。

2死1,2塁で8番近野。

センターオーバーのタイムリーツーベースで逆転に成功!

秋田商業 2-1 健大高崎

「今年の秋田商業、いけるかもな。」

成田の投球だけではない、秋田商業の強さを見た瞬間だった。

 

名采配が光る秋田商業・太田監督

さらに4回にもチャンスを作る秋田商業。

相手の失策も絡み、ノーアウト満塁。

7番成田和。

「ノーアウトで満塁。ここはどう攻めるんだろう?」などと思う間もなかった。

この時の実況の声が、しばらく頭を離れなかったほど、衝撃的な攻めをした秋田商業。

「バントの構え、スクイズだー! 3塁ランナー、スタートを切っている、セーフ!」

「ノーアウト満塁。初球からスクイズを仕掛けました!」

意外な攻め。当然、不意をつかれたであろう、健大高崎の守備陣。

秋田商業 3-1 健大高崎

ベンチ前で拍手する太田監督。

そういえば、太田監督は高校(秋田商業)時代、ヤクルトの石川雅規投手とバッテリーを組んでいたらしい。そして甲子園にも出場し、共に青山学院大に進学。「石川二世」とも評された成田翔投手に、当時の自分たちの想いを掛け合わせていたかもしれない。

 

後日、気付かされた葛原コーチの戦略

その後、両チーム追加点のないまま、8回へ。

「どうもおかしい、、。」

健大高崎の初回の1点は別としても、その後も成田は、2回戦のように「三振の山を築く」とはいかない。

この試合、終わってみれば成田の奪三振は7。比べて与えた四球は5

健大高崎・葛原コーチの”戦略眼”に気付かされたのは後日の話。

とにかく三振を奪われてはならない。相手を勢い付かせないためにも、いかにファールなどで粘り、球数を投げさせるか、、。

どれだけ目立ちたい、ヒットを打ちたいという選手がいても、”真横に打て(ファールにしろ)”と言わぬばかりの指示すら出していたようだ。

それだけ、葛原コーチの成田に対する警戒ぶりが分かる。

四球を選ぶ選球眼もさることながら、三振を奪われずにどれだけ出塁できるかに苦心していた様がうかがえる、、。後日、感心してしまった。

 

”機動破壊”ぶりを発揮した8回

8回裏、健大高崎の攻撃。

1死から2番林が三遊間を破るヒットで出塁。

「また、林が出たか、、。」

この選手が塁に出ると嫌な予感しかしない。

続く3番相馬もヒットで1死1・2塁。

そして初回で先制打を放った4番柴引が打席へ。

「ここは何としても抑えてほしい、、。」

おそらく秋田商業の成田や守備陣も柴引を抑えることに集中していたのではないだろうか。

その証拠に、外野はかなり深めの守備位置に変わっている。

その”心の隙”を健大高崎は見事に突いてきた、、。

「今こそ、”機動破壊”の本領発揮!」と言わんばかりに、、。

何と、、ノーカウントからのダブルスチール!!

キャッチャーの工藤はすかさず3塁へ送球。

何でもないワンバウンドの送球だったが、ボールはサード小南のグラブをはじいてファウルグラウンドへ、、。

キャッチャー工藤の焦る気持ちがそうさせたのか、サード小南が素早くタッチしようと焦ったのか、、どちらとも言えないが、健大高崎の”心理戦”が守備陣を惑わしたことは間違いなさそうだ。

林はホームに生還。

1塁ランナーの相馬もこの隙に3塁まで。

秋田商業 3-2 健大高崎

そして追い打ちをかけるように、健大高崎が成田を”破壊”しにかかる。

カウント、1ボール2ストライク。

成田のスライダーを柴引がとらえる!

ライト線へのタイムリースリーベース! 同点に。

秋田商業 3-3 健大高崎

夏が終わった後も記憶に残り続けた”機動破壊”

この後、両チーム得点なく、延長戦へ。

延長10回、秋田商業は1番キャプテンの会田がタイムリーツーベースを放ち、さらにピッチャーの暴投の間に3塁まで。そして2番草彅が三遊間を破るヒットで秋田商業、勝ち越しに成功する。

秋田商業 4-3 健大高崎

10回裏、成田は再びのピンチを背負いながらも健大高崎を抑え、見事、ベスト8に。

秋田県勢、久しぶりのベスト8ということもあり、感動はひとしおだった。

それにしても、秋田商業の勝利以外にも、記憶に残った”機動破壊”の映像。

成田も、ランナーを背負うその都度、神経をすり減らしていたかもしれない。

この夏の甲子園が終わった後も、しばらく「健大高崎」「機動破壊」の両4文字は頭を離れなかった。

 

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今週末、10月5日(土)、6日(日)にこまちスタジアムにて招待試合が予定されている健大高崎

対戦予定の能代松陽明桜秋田商業

葛原氏がコーチ陣を去った健大高崎。

今年の夏は群馬県大会、初戦で姿を消した健大高崎。

しかし、秋の大会では上位3校に入り、春のセンバツを見据えます。

「原点回帰」をほのめかした青柳監督。

秋田でどのような戦い方を見せてくれるのか、、非常に楽しみです。